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引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2010/01/html/d62455.html
高智晟著『神とともに戦う』(17) 我が平民の母(6)
貧しい人々を支えた母の偉業のうち、最も忘れ難く、いまだ記憶に新しいのは、そのうちの2つである。1つは、寒風が突き刺すような真冬の夜のことだ。その夜、物乞いになった数人の貧しい人たちが、崩れかけた洞窟の中へ入り込んでいた。もう床についていた母はそれを知ると起き上がり、私たちを連れて、私たちと同じくらい貧しい彼らに会いに行った。今でも鮮明に覚えているのは、母に付いてその壊れ洞窟まで来たときのことである。洞窟の口は、中にいた彼らによって麦わらやアワ殻で塞がれていた。母が手でそれらを取り除いたとき、目の前に現れた光景は切ないものだった。ほの暗い月光が照らすのは、様々な年齢の男女8人が身を寄せ合う姿。母は、ここにやって来た目的を告げると、入り口を塞ぐわらを取り去った。その時、彼らは驚きのあまり口も開くことなく、ただ私たちをしばらく見てから、互いの顔を見合わせた。だが、母の言葉を聞くと、彼らも安心した様子だった。貧しい人々(もちろん私たちも含む)は、その夜私たちの洞窟にひしめくことになった。オンドルの上から地面まで、どこも人であふれていた。

 もう1つは、ある年の夏の日の出来事だ。子どもを連れた物乞いの母親が我が家にやってきたが、あいにく家の納屋には一粒の食料すらなく、助けられるような状態になかった。物乞いの母親は失意の様子で、子どもを連れて立ち去ろうとした。私の母は2人を呼び止め、家の中でしばらく待たせた。するとまもなく、母はまだ熟しきっていないトウモロコシを2本抱えて戻ってきた。母は自家作地へ走っていき、トウモロコシを2本折ってきて、2人に差し出したのだった。

 母は生涯、天を敬い善行(ぜんこう)を積み、仏をあつく信仰した。これには誰もが感動を覚えた。私が弁護士になって1年目、母はすぐに貧乏から脱却した。貧しさに別れを告げ、子どもたちがみな立派に育っても、母は相変わらず仏を敬い善行を重ね続けた。これは、母の精神生活にとって重要なものとなった。私はこれに対し、可能な限り物質面で支えた。母の仏に対する敬虔な心や善行の数々に、私はよく熱い涙を流したものだ。

 数年前のある日、墓荒らしに遭った際、罪のない、墓を持たない遺骨が山野に散乱していた。母は自費で骨を収める木箱を購入し、力の及ぶ限りその遺骨を拾い集めて埋葬をした。そして、新年や節句には必ず、「彼ら」のために紙銭を燃やすよう、孫たちに言い付けた。

 母は貧しさを逃れた後も、貧しい人たちへの手助けを忘れはしなかった。ここ数年、毎年春節に帰省すると(他界したばかりの母の最後の春節も含めて)、決まって私たち兄弟姉妹が知らない家族連れが我が家に食事にきた。彼らはみな、判を押したように身なりがみすぼらしかったので、母に尋ねると、母はいつも笑ってこう答えた。「うちの親戚だよ」。

 今年の春節のある日、痩せてひ弱そうな男性が子どもを2人連れて我が家を訪れた。オンドルに横になっていた母は力を振り絞って、「こちらはお前たちの親戚だよ」と私たちに言った。そして、(私たち家族は食事を終えて片付けも済んでいたが)私の兄嫁と姉に食事を作りもてなすよう言いつけた。特に、大人も子どもも十分に食べさせるように、と念を押した。

 2人の子の咳が止まらないのを耳にした母は、姉と私がお金を出して、この子達を医者に見せるようにと言った。弟の話によると、あれは隣村の物乞いになった貧乏人で、母が彼らを「親戚」にして以来、新年や節句の際には必ず母を訪ねるのだそうだ。当時、この弟は「お袋のこういう親戚は多いんだ」と苦笑していた。うちの村に父を亡くした貧乏家庭が2つあったが、彼らの父が亡くなってほどなく、彼らは名実ともに我が家の「親戚」になった。例えば私はずっと、定期的にその家の子の学費を援助した。また、新年や節句の際には、私たちはまるで家族のように共に祝った。母の葬儀を手配する過程で、その一家はまるで母の実の子のように孝道を尽くした。私たちはこれに感極まると同時に、切なさに胸が痛んだ。

 (続く)
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