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引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2009/09/html/d71143.html
高智晟著『神とともに戦う』(3) 「暗く果てしない道」
私は家路に着いた。その初日、黄陵まで一気に40キロも歩いた。何も口にしていなかったので、ひどくお腹が空いていた。ある食堂を通りがかると、中では油条(細長い揚げパン)を揚げている。当時はもう旧暦の11月だったのに、ボロの服しか身にまとっていなかった。それを脱ぎ、「もう腹ペコで死にそうです。油条2本と換えてくれませんか」とささげるようにして相手に差し出した。30過ぎの人は、「小僧、看板を良く見ろ。お前が物乞いに来るところか」と言いながら、両手で私の首をつかんで追い出した。顔を上げて見ると、そこには「国営食堂」と書かれていた。(96年陜西省に里帰りした際、わざわざここまで足を運んだ。相変わらず食堂ではあったが、当時の国営食堂は個人経営になっていた。)

食堂を追い出された私は、石炭を運ぶ軍の車両に出会った。立派な軍服をまとった人が車両から降りてきた。幼いころから、解放軍がどれほどすばらしいか聞かされて育ったので、駆け寄ってひざまずき、彼の足にしがみついた。そして、「軍人さん、もう腹ペコで死にそうです。何か食べるものを恵んでください」とすがった。鼻水と涙でグショグショになって哀願したが、全く相手にされなかった。視線を上げると、彼の目は通り過がりのきれいなお嬢さんに釘付け。私の言葉など耳に入らないのだ。この時の物乞いも失敗に終わった。

その夜、バスの発着所に着いた。この時、まだ意識ははっきりしていた。私がそこを目指した理由。それは何よりもバスの方向に歩きさえすれば、家路に迷うこともないと思ったからだ。もう、物乞いもあきらめた。激しい飢えの中、発着所の入り口に横たわった。寒さで震えが止まらない。夜もかなりふけたとき、「坊や、どうしたの。なぜこんなところで寝ている?」と問う声が聞こえた。私はぱっと目を開き、目の前でしゃがんでいるおじいさんに「腹ペコでしょうがないんです」と答えた。すると、おじいさんは「じゃあ、ついて来い」とため息をついた。

そのおじいさんは60歳位の石職人で、仕事帰りなのが一目で分かった。口にキセルをくわえ、手はあかぎれだらけ。家に着くや否や、手も洗わずに小麦を500グラムほど測り、どんぶりいっぱいの手作りうどんを作ってくれた。私は汁まできれいに平らげた。しばらくおしゃべりしてから、おじいさんの寝床で寝てしまった。翌日の朝、おじいさんは延安までの切符をくれて、しかも5元を私の懐に押し込んだ。おじいさんの一日の稼ぎはわずか1元5角である。これで一気に13元6角がふっとんだのだ。当時、礼儀など知らなかった私は、名前も伺わずに家路に着いた。今振り返ると、強い後悔の念に駆られる。

黄陵から延安までは100キロ余り。バスに乗ると半日で着いた。延安に到着したときは午後だった。そこで、断腸の思いで5分の羊の皮を食べ、餃子7個も注文した。餃子一個が2分だったので、合わせて1角9分。確か父が亡くなる前、長らく我が家で餃子を食べることはなかった。その夜も延安のバス発着所で休んだ。そして翌日の夜明け前、バスのエンジン音で目を覚ました私は、実家の方向へと歩いて行った。

10キロくらい行くと、明るくなって来た。道端にはタクシーが停まっている。運転手はバンパーの上に足をかけて、ちょうど車の修理をしていた。傍らには桶がある。車に水が必要かどうか分からなかったが、私は桶を持って水を探した。0.5キロ離れた水路から水を運んでいるとき、不安でたまらなかった。運転手は、この水が必要だろうか。私を乗せて行ってくれないだろうかと。

その運転手は顔も上げずに、水を受け取りタンクに流し込むと、その桶を私に返した。この時の私の喜びようといったらなかった。また水を運んで渡すと、エンジンが始動した。運転手は私に行き先を尋ねることもなく、ただ一言「行くぞ」。私はうなずき、助手席に乗ろうとすると運転手は「おい、後ろに行け」。後で思い返すと、あの時私の体臭は並大抵ではなかった。運転手もあまりの汚さに閉口したのだろう。でも、前だろうが後ろだろうがかまわない。あの当時、喜ばしいことなどほとんどなかった私にとって、これは最もうれしい出来事の一つであった。

(続く)
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