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引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2009/09/html/d20778.html
高智晟著『神とともに戦う』(4)
それにしても、これはとんでもない道中だった。延安から綏徳(すいとく)まで少なくとも270キロあるが、その日の夜には着いた。そこから我が家まではあと、95キロ。これで希望が見えて来た。私は、残りの4元余りには手をつけたくなかった。どうあっても、母親に手渡したかったからだ。それですきっ腹を抱え、綏徳のバスの発着所で寝ることにした。かかとさえ擦り減りなくなってしまった靴にお金を忍ばせて、私は横になった。


  夜中、お尻を蹴られた感じがして起きた。相手は「コソ泥め、何をしている。俺たちは民兵の見回りだ」。

 「何をしていると思う?」という私の返事に、彼らは「生意気なやつだ。さっさと行け」。

 民兵たちは私を駅の警備室に押し込めた。中にいたのは、ちょうどガソリンの空き缶で炭を焚いて暖を取っているおじいさんだった。民兵は私をそのおじいさんに引き渡すと、「明日けりをつけるからな」と捨て台詞を残し、また見回りに行った。

  私は泣きながら、彼に自分の体験を話した。当時、「このみじめな体験に、おじいさんも心打たれて、見逃してくれるんじゃないか」という狙いもあった。彼はひとしきり私の話を聞くと立ち上がり、無言で外からドアの鍵をかけ、出て行った。「きっと私の無駄口に嫌気が差したのだ」と私は思った。だが、彼はまもなくして戻って来て、懐から大きなサツマイモを2個取り出し炭火であぶった。サツマイモが焼けると私に手渡し、口をついたのは「小僧、芋でも食べな。お前は悪い子じゃない。民兵たちは明日、お前を採石場に連れて行き働かせるつもりだ。無期限でな。お前が自由になれるかどうかは、あいつらの気分しだい。さあ、早く家へお帰り。それから軍隊に入って、袋小路から抜け出しなさい。なあに明日あいつらが来ても、せいぜい私が殴られるくらいだから」だった。

 ああ、黄陵では食べ物さえありつけなかったが、この道中でこれほど多くの善人に出会うとは!

家に帰ると、ようやくの家族との再会に慟哭した。あのころ、我が家は食っていくために、みなそれぞれ各地に働きに出た。だから、家族2人が顔を合わせるだけで涙した。話をする前に、まずはひとしきり泣く。別れは難しいが、再会はもっと難しいのだ。

 母は、私が軍隊に入るのに賛成しなかった。もちろん理由がある。あの当時、父は病気のため輸血が必要だったが、我々には費用が払えなかったので、兄と姉が献血した。一番上の兄は最も多く献血し、それで体がぼろぼろになった。父が逝ったあと、すべての重荷がこの兄一人にのしかかった。母はこの兄をいたく可愛がっていた。

 しかし、私はもう心を決めた。当時泣きはらす母に対して口をついた一言は、今思い返しても心が痛む。私は母にこう言い放ったのだ。「母さんには僕を学校に行かせる力がない。それはつまり、僕の人生設計を描く力もないということ。なら、自分で描くよ」最後には母も折れた。

 この軍隊での3年間は、私の人生に大きな影響を与えた。まず、外には故郷や出稼ぎ農民以外の世界があることが分かり、別の視点で物事をとらえられるようになった。あるいは、物事をとらえる過程や雰囲気が変わった。私は最初はただ良い食事にありつきたいとだけ願ったが、その後「軍が(除隊後の)仕事を手配してくれないかな」と高望みするようになった。しかしあの時代、農村へは露骨な制度上の差別があった。たとえば、農村出身の兵士はその出身地へ帰されたのである。

 とうとう復員通知を受けた。復員というのは、つまり実家に戻り畑を耕すことである。直立してこの知らせを聞いた私は、たちまちしゃがみこみ、しかも大量の鼻血が出た。希望を突然失うと、人は思いもよらぬ生理反応が起こるものなのだ。

(続く)
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