動画 画像 音声 記事     
         
サブメニュー
      物語
      映画
物語  >  物語
引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2013/11/html/d12878.html
チベットの光 (73) 学者の嫉妬
ティンリ地方にツァアオプ博士という学者がいた。この学者は心根が貧しく、金に目がなかった。しかし、彼は学者であったために、地元の住民は彼を尊敬し、宴会を催す時はいつも彼を招き、上座に据えていた。しかし、ミラレパが当地に来てからというもの、住民はミラレパを尊敬するようになり、彼は内心面白くなかった。

 彼は思った。このミラレパという人物は知識もあまりないのに、なぜ自分のような学者と比肩できようか。ツァアオプ博士の心は嫉妬の炎で燃え上がったが、表面上ではミラレパを尊敬するふりをしていた。彼は尊敬している素振りを見せながら、人が集まっている所では、故意にミラレパに難解な質問をして、ミラレパの体面をなくそうとした。しかし、博士は一度としてその意を得ることができなかった。


 この日、ティンリで盛大な宴会が催され、ミラレパが上座につき、この学者がその次席についた。ツァアオプは大衆の面前でミラレパに敬礼した後、宴席の中で立ったままミラレパの答礼を待ったが、ミラレパからは何の礼も返されなかった。彼は、大衆の面前で座ることもできず、立つこともままならず、大恥の極みであった。元来、尊者は修行の道に入って以来、師父の他に他人には礼をしていなかった。しかし、博士にとってはこれが面白くなく、表面では何もなかったかのようなふりをして微笑みながら席に戻ったが、内心では煮えくり返っていた。ああ!わたしのような博識の学者が、彼のような何の学問もないような人間に礼をしているというのに、返礼もしないとは!あのようにのうのうと上座について、私のような博士を次席につけるなんて、そんなことがありえようか!彼に一発お見舞いして、大衆の面前で面子をつぶさないでおくものか。

 こうして、彼は難解の文字で一杯の仏教書をとりだしてミラレパに質問をした。

 「この本の一字一句を説明して、われわれの疑問に答えてください。同時にあなたの考え方を披露して、論述してくれませんか」

 「この本の字の意味は、あなたは一字一句読み解けるかもしれない。しかし、本当の意義は、如何にして人間世界の七情六欲を克服するか、自我の執着を取り除くか、輪廻に再び入らずに、解脱するかだ」とミラレパは答えた。


 「その他、人に如何に問答するかの学問は、根本的に無用であり、学んだこともなければ、聴いたこともない。もし学んだことがあったとしても、もう早くに忘れた」

 「あなたのような専業の修行者は、おしなべてそのような答え方をする。しかし私たち学者は、もっと論理的な話し方をする。あなたが今言った話は、わたしから見れば、この本の中の仏法の奥義とはまったく符合していない。私はあなたがいい人だと思って礼拝したのに…」

 博士はぺらぺらと喋っていたが、宴会に参加していた村人たちは、一斉に騒ぎ出した。「博士!あなたにいくら知識があろうと、いかに仏法の理論を知っていようと、あなたのような人はどこにでもおり、世界中にいる。尊者には足元にも及ばないよ。もうそんな話はいいから、上座に座って安閑としていればいいじゃないか。静かに財産を増やす方法でも考えて、もう宴会の座をこれ以上濁さないでくれよ」

 (続く)


 (翻訳編集・武蔵)
関連文章
      チベットの光 (1)
      チベットの光 (2) 餓えと寒さ
      チベットの光 (3) 人情酷薄
      チベットの光 (4) 家財の返還拒否
      チベットの光 (5) 悲劇の始まり
      チベットの光 (6) 報復の決意
      チベットの光 (7) 酒のうえでの過ち
      チベットの光 (8) 報復の立志
      チベットの光 (9) 師事
      チベットの光 (10) 帰れない家
      チベットの光 (11) 殺人呪術
      チベットの光 (12) 悪因悪果
      チベットの光 (13) 殺人の実行
      チベットの光 (14) ウェンシーの殺害計画
      チベットの光 (15) 報復の継続
      チベットの光 (16) 送金の計
      チベットの光 (17) 雹を降らせる法
      チベットの光 (18) 追手
      チベットの光 (19) 偽の手紙
      チベットの光 (20) 正法への願い
      チベットの光 (21) 聖者到来の夢
      チベットの光 (22) ラマの耕作
      チベットの光 (23) 何のために正法を求めるのか
      チベットの光 (24) 再度、雹を降らせる
      チベットの光 (25) 再度の殺人
      チベットの光 (26) 山頂の石小屋
      チベットの光 (27) 石屋を建てては壊す
      チベットの光 (28) 風水のよくない建物
      チベットの光 (29) 十階建ての僧坊
      チベットの光 (30) 大きな堡塁
      チベットの光 (31) 受けられない灌頂
      チベットの光 (32) 灌頂を求めてまた侮辱を受ける
      チベットの光(33) 砂を入れるポケット
      チベットの光(34)師母のはからい
      チベットの光 (35) 師父の怒号
      チベットの光 (36) 師母のルビー
      チベットの光 (37) 絶望
      チベットの光 (38) 泣き菩薩
      チベットの光 (39) 偽りの手紙
      チベットの光 (40) 老婆の涙
      チベットの光 (41) 嘘
      チベットの光 (42) 露見
      チベットの光 (43) 法を求める心
      チベットの光 (44) 絶望と自殺への思い
      チベットの光 (45) 最高の弟子
      チベットの光 (46) 真相
      チベットの光 (47) 悟りの兆候
      チベットの光 (48) 俗塵を超えた悟り
      チベットの光 (49) 望郷の念
      チベットの光 (50) 師弟の別れ
      チベットの光 (51) 今生の生き別れ
      チベットの光 (52) 廃墟の実家
      チベットの光 (53) 人生貫徹
      チベットの光 (54) 再び罪業を償う
      チベットの光 (55) 許嫁との再会
      チベットの光 (56) 叔母の来意
      チベットの光 (57) 忍辱
      チベットの光 (58) 精進苦修の誓い
      チベットの光 (59) 野草のイラクサ
      チベットの光 (60) 狩人の凌辱
      チベットの光 (61) 人か幽霊か
      チベットの光 (62) 修行快楽歌
      チベットの光 (63) 兄妹の再会
      チベットの光 (64) 師父の書簡
      チベットの光 (65) 空中飛行
      チベットの光 (66) 所詮は小術
      チベットの光 (67) 世の中で最も幸福な人とは
      チベットの光 (68) 妹の世俗的な考え
      チベットの光 (69) 人生無常
      チベットの光 (70) 叔母の慈悲
      チベットの光 (71) 尊者の名望
      チベットの光 (72) 如何にしたら勇猛精進できるのか
      チベットの光 (73) 学者の嫉妬
      チベットの光 (74) 毒入りチベット・バター
      チベットの光 (75) 済度
      チベットの光 (76) 仏法神通
      チベットの光 (77) 博士の得度
      チベットの光 (78) 涅槃入定
      チベットの光 (79) 神秘現象
      チベットの光 (80) ラティンバの帰郷
      チベットの光 (81) 復活
      チベットの光 (82) 辞世の歌
      チベットの光 (83) 舎利子
      チベットの光 (84) ミラレパの遺品