動画 画像 音声 記事     
         
サブメニュー
      物語
      映画
物語  >  物語
引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2013/09/html/d37532.html
チベットの光 (66) 所詮は小術
「見るな!見て何が面白いんだ!シャアツェのバイツォンヤンの婆さんが悪魔みたいな餓鬼を生みやがって。餓えても死なない『悪魔のミラ』とは、あいつのことだ。大方そんなことだ。いいか、おまえも気をつけろよ。あいつにつきまとわれないようにしろ。早く奴にはかまわず、さっさと畑を耕せ」。彼の父親は上を見上げず、みて見ぬふりをして言った。元来、彼は叔父の一派で、それゆえミラレパを恐れていた。彼は自分の子に警告を発しながら、一方では身を避けるようにし、彼の影のさすのを恐れていた。

 「ああ!生きている生身の人間が空を飛んでいるなんて、なんて不思議なことなんだ!もし空を飛べるんだったら、僕は片足がなくなってもいいよ。ああなれたらなぁ」、子供は完全に父親の話を無視し、畑を耕さずに空中を飛行するミラレパを見つめていた。

 ミラレパは戻った後に思った。私は現在自在に飛行することができるようになって、行きたい所には行けるようになった。現在では、衆生を救い、衆生に法を説く力量を得たのだ。しかし、そう思ったとき、面前に仏陀が顕れ、彼に言った。

 「おまえは師父のいいつけをよく守り、終生修行に励むとよい。世間にどんな事情があろうとも、修行より衆生を利することはなく、それでこそはじめて仏法を広めることができる」

 ミラレパは心の中で思った。そうだ、現在空を飛行するこができたといっても、それが何なのだ。佛になることと比べたら、本当に小さな事じゃないか。もし私がここで満足してしまったら、修行の成果を得る前に、それを台無しにしてしまうことになりはしないか。彼はそう考えると、すぐに警戒心が生じた。

 飛行という小さな神通を得たからといって、なぜ満足できるというのだ。それは元来、自分を奨励して、さらに修行に励むように継続実修させるものだ。

 「しかしもうここも長いしなぁ」、ミラレパは独り言を言った。「私を知る人もますます多くなった。今日は、空を飛んでいる所を子供に見られたし、これからは私に会いに来る人もますます多くなるだろう。ここに続けて住んでいたら、邪魔がますます大きくなって、修行の障碍になるだけでなく、それから世間の名利にかられ、佛になる修行が中断する恐れがあるな。そうしたら、下に堕ちて、駄目になるかもしれないぞ。危険至極なことだ」

 ミラレパはこのように考え、自らの歓喜心を恐ろしいと感じた。功能を得たからと言って、それを自ら素晴らしいと思わず、佛になることこそ最も重要な成果なのだ。こうして彼は、別の修行地である「チューバ」に行くことにした。

 ミラレパは身辺に何もなく、イラクサを煮る土鍋が彼の唯一の所有物であった。彼はそれを背負って、フマパイの洞窟を出た。

 彼は長期に渡る苦修と欠食で栄養失調となり、体力が衰え、山の斜面をノロノロと歩きながら、ボロボロの衣服を地面にひきずっていた。するとうっかりして、彼は足元の石ころに躓き、倒れた拍子に土鍋を背負っていた縄が切れ、鍋が地面に落ちた。鍋は粉々となり、鍋の中にあったイラクサが地面一杯に散らばったのを見て、ミラレパは世間事物の「無常」を感じ、精進修行の心が更に生じた。

 そのとき、山の反対側の斜面にいた猟師が食事をしていて、その物音に気づき、走ってきた。彼は、破片を手にしたミラレパを見て、好奇心から言った。

 「あんた、もう土鍋は壊れているのに、その破片で何をしようというのかね。なんでそんなに痩せているんだか。それになんで全身が緑色なんだい」

 (続く)


(翻訳編集・武蔵)
関連文章
      チベットの光 (1)
      チベットの光 (2) 餓えと寒さ
      チベットの光 (3) 人情酷薄
      チベットの光 (4) 家財の返還拒否
      チベットの光 (5) 悲劇の始まり
      チベットの光 (6) 報復の決意
      チベットの光 (7) 酒のうえでの過ち
      チベットの光 (8) 報復の立志
      チベットの光 (9) 師事
      チベットの光 (10) 帰れない家
      チベットの光 (11) 殺人呪術
      チベットの光 (12) 悪因悪果
      チベットの光 (13) 殺人の実行
      チベットの光 (14) ウェンシーの殺害計画
      チベットの光 (15) 報復の継続
      チベットの光 (16) 送金の計
      チベットの光 (17) 雹を降らせる法
      チベットの光 (18) 追手
      チベットの光 (19) 偽の手紙
      チベットの光 (20) 正法への願い
      チベットの光 (21) 聖者到来の夢
      チベットの光 (22) ラマの耕作
      チベットの光 (23) 何のために正法を求めるのか
      チベットの光 (24) 再度、雹を降らせる
      チベットの光 (25) 再度の殺人
      チベットの光 (26) 山頂の石小屋
      チベットの光 (27) 石屋を建てては壊す
      チベットの光 (28) 風水のよくない建物
      チベットの光 (29) 十階建ての僧坊
      チベットの光 (30) 大きな堡塁
      チベットの光 (31) 受けられない灌頂
      チベットの光 (32) 灌頂を求めてまた侮辱を受ける
      チベットの光(33) 砂を入れるポケット
      チベットの光(34)師母のはからい
      チベットの光 (35) 師父の怒号
      チベットの光 (36) 師母のルビー
      チベットの光 (37) 絶望
      チベットの光 (38) 泣き菩薩
      チベットの光 (39) 偽りの手紙
      チベットの光 (40) 老婆の涙
      チベットの光 (41) 嘘
      チベットの光 (42) 露見
      チベットの光 (43) 法を求める心
      チベットの光 (44) 絶望と自殺への思い
      チベットの光 (45) 最高の弟子
      チベットの光 (46) 真相
      チベットの光 (47) 悟りの兆候
      チベットの光 (48) 俗塵を超えた悟り
      チベットの光 (49) 望郷の念
      チベットの光 (50) 師弟の別れ
      チベットの光 (51) 今生の生き別れ
      チベットの光 (52) 廃墟の実家
      チベットの光 (53) 人生貫徹
      チベットの光 (54) 再び罪業を償う
      チベットの光 (55) 許嫁との再会
      チベットの光 (56) 叔母の来意
      チベットの光 (57) 忍辱
      チベットの光 (58) 精進苦修の誓い
      チベットの光 (59) 野草のイラクサ
      チベットの光 (60) 狩人の凌辱
      チベットの光 (61) 人か幽霊か
      チベットの光 (62) 修行快楽歌
      チベットの光 (63) 兄妹の再会
      チベットの光 (64) 師父の書簡
      チベットの光 (65) 空中飛行
      チベットの光 (66) 所詮は小術
      チベットの光 (67) 世の中で最も幸福な人とは
      チベットの光 (68) 妹の世俗的な考え
      チベットの光 (69) 人生無常
      チベットの光 (70) 叔母の慈悲
      チベットの光 (71) 尊者の名望
      チベットの光 (72) 如何にしたら勇猛精進できるのか
      チベットの光 (73) 学者の嫉妬
      チベットの光 (74) 毒入りチベット・バター
      チベットの光 (75) 済度
      チベットの光 (76) 仏法神通
      チベットの光 (77) 博士の得度
      チベットの光 (78) 涅槃入定
      チベットの光 (79) 神秘現象
      チベットの光 (80) ラティンバの帰郷
      チベットの光 (81) 復活
      チベットの光 (82) 辞世の歌
      チベットの光 (83) 舎利子
      チベットの光 (84) ミラレパの遺品