物語 > 物語
引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2013/01/html/d42864.html
チベットの光 (32) 灌頂を求めてまた侮辱を受ける
このとき、リタ地方からまた大灌頂を受けに師父のもとへ人がやってきた。
「今度の灌頂は、あなたもきっと受けられるわよ」。師母がウェンシーに言って、供養するための品々を渡した。彼は嬉しくてたまらず、やっと自分も灌頂を受けられるのだと思うと、天にも昇る気持ちで、それらの品々を手にするとさっそく仏堂へと足を運んだ。 「おまえはなぜまた来たのか?」師父はウェンシーに尋ねた。「供養するものはあるのか?」 「あります」。ウェンシーは落ち着き払って、師母から手渡されたバター、毛布、銅盤(※)を師父に見せた。 「はははは!」師父はこれらの品々を見ると大笑いして言った。「怪力君や!君はふざけているのか?これらの品々は、以前に別の人が私を供養して与えてくれたものだよ。それでまた私を供養するというのか?ありえないことだ」。師父はつかつかと彼の元へとやってくると、「供養品がないのなら、ここから出ていけ!」と一喝して彼を仏堂から蹴りだしてしまった。 ウェンシーは恨めしく、穴があったら入りたい気分だった。「どうしてこうなってしまうのだろうか?マントラで人を多く殺したからか?それとも雹を降らせて収穫を駄目にしてしまったからなのか?」ウェンシーはあれこれと思いを巡らせ、心の中は苦しさでいっぱいだった。「これは私が応報にあっているということではないのか?もとより業が重すぎれば、正法を得ることは難しい!この罪業でいっぱいの肉身を持って、まだ世に生存して業を積み続けているなら、いっそ死んでしまった方がましなのかも…」。自殺の念がウェンシーの頭をよぎり、夜ひとりになると苦しくてしかたがなかったが、師母が訪れて、法会の食べ物を差し入れ、いつも慰めていた。ウェンシーは苦しさの余り、食べ物もろくに喉を通らず、自分の部屋で泣き暮らしていたが、そんなとき師母は夜を徹して付き添っていた。 あくる日、師父がまたやってきてウェンシーに言った。「おまえはもうあれこれと考えることなどない。あの城楼が完成したら法を伝えよう」 ウェンシーはまた必死の思いで工事を始め、この城楼を完成させた。このとき、彼の背中には大きな創口ができ、三か所から膿と血が吹きでて、腐った肉が爛れて糊のようになり、その痛みが堪え難いものとなっていた。 城楼が完成すると、ウェンシーは師母に駆け寄って言った。「もう工事は完成しました。けれど、師父は法を伝えるということを忘れているのではないかと心配です。ですので、師父にこのことを…」ここまで言うと、背中の傷の痛みで苦悶の表情を浮かべた。 「怪力君!どうしたの?病気?」師母は、彼が顔面蒼白となり、額から汗を流して苦悶の表情を浮かべているのを見て尋ねた。 「師母!私は病気などではありません。ただ背中の傷が痛くて…」ウェンシーは背中の痛みに耐えきれず、衣服を脱ぐとその創口を師母に見せた。師母はあっと声を挙げ、涙を流した。実際、それは彼女には見るに忍びないものであった。 (※)銅盤…銅でできた水入れ (続く) |