動画 画像 音声 記事     
         
サブメニュー
      物語
      映画
物語  >  物語
引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2013/06/html/d63218.html
チベットの光 (53) 人生貫徹
しばらくして、ミラレパは意識の混迷から醒めてきた。彼は師父から教えられた超度の口訣を思い出すと、すぐに打座して入定し、口訣を黙呪して七昼夜を過ごした。すると、母親と父親がそろって浄土に引導されたのが見えたので出定した。

 ミラレパは出定すると、さらに人生の無常と生老病死の悲哀を感じたので、さらに努力し修行しなくてはならないと決心し、自らに誓った。「もし私の心が堅く定まっておらず、修行する決心がつかないようになり、世間の苦、楽、富、毀、誉、貴、賤の八風に惑わされたなら、私はむしろ自ら命を絶つ。もし私に一点でも快楽を求める心があり、楽をする考え方があるのなら、空行護法の神に自らの命を絶っていただきたい」。ミラレパは心の中で何度も誓いを立て、修行する決心を固めた。

 ミラレパは母親の遺骨を処理すると、心の内に寂寞としたものを覚えた。しばらく家に帰らないうちに、母親と妹が見えなくなったばかりか、母親の遺骨さえ満足に埋葬されていなかった。これは彼に生涯忘れられないものを刻み込み、人生の虚幻と無常を感じた。

 「ああ」、彼は嘆いた。世上の人で、金もうけを考えない人はいない。汗水たらして苦労して財産を築き上げても、最後には、結局夢幻の一コマにしかすぎない。 

 「人生の苦労を味わったことのない人こそ、世間の快楽を求める。人は誰でも最後には死に、死んだ後は必ずまた輪廻に入って苦しみを受ける。もし、人が時としてこれを銘とすることができるのなら、世間の短絡的な快楽や虚幻の富貴栄華ばかりを求めることはなくなるだろう」。ミラレパはこう自らに言い聞かせ、決心を固めた。

 「わたしはすでに人生を見切った。したがってどのように貧乏になろうとも、どのように人に笑われても、これからの生涯は、自らと衆生のために正法を修める。わたしはかならずや世間の一切を放棄し、終生を修行に捧げ、世間の苦楽を超脱し、本当の解脱に到達してみせよう」

 あくる日、ミラレパは托鉢で得たツァンバといささかの食料をもって、郷里の近くにある山の洞窟に入って修行を始めた。彼は洞窟で打座の修行を始めると、数か月も山を下りなかった。山に入る前に托鉢で得たわずかな食糧だけが命の綱で、ここ数か月で、彼の功は大きく前進したものの、栄養失調のために体が衰弱していた。最後には、わずかな食糧も底をつき、彼は自身の身体さえ支えきれなくなって、山を下りて食料を得なくてはならなくなった。

 このとき、ミラレパは骨と皮ばかりになり、体は衰弱しきっていた。彼は山から下りると、麓には牧場があり、テントがひとはり立っていた。彼はテントの前に立つと、中の人に向かって話しかけた。

 「すみません、旦那さん。一介の行者ですが、托鉢に参りました。どうか、チベット・バターでも恵んでもらえませんでしょうか」

 これを聴いたテントの中の人は、何ももって出てこなかったばかりか、却って猛犬を仕掛けてきた。ミラレパが自衛のために石礫を忙しく投げていたとき、テントの中の人が出てきて怒鳴った。 

 「この悪魔、ろくでなしの穀つぶしが!全村民の敵が!恥も知らずに、よくもまあ帰ってきたね!あんたの家族は、あんたが原因で死んだってのに、よくもまあ帰ってこれたもんだね!」


(続く)
関連文章
      チベットの光 (1)
      チベットの光 (2) 餓えと寒さ
      チベットの光 (3) 人情酷薄
      チベットの光 (4) 家財の返還拒否
      チベットの光 (5) 悲劇の始まり
      チベットの光 (6) 報復の決意
      チベットの光 (7) 酒のうえでの過ち
      チベットの光 (8) 報復の立志
      チベットの光 (9) 師事
      チベットの光 (10) 帰れない家
      チベットの光 (11) 殺人呪術
      チベットの光 (12) 悪因悪果
      チベットの光 (13) 殺人の実行
      チベットの光 (14) ウェンシーの殺害計画
      チベットの光 (15) 報復の継続
      チベットの光 (16) 送金の計
      チベットの光 (17) 雹を降らせる法
      チベットの光 (18) 追手
      チベットの光 (19) 偽の手紙
      チベットの光 (20) 正法への願い
      チベットの光 (21) 聖者到来の夢
      チベットの光 (22) ラマの耕作
      チベットの光 (23) 何のために正法を求めるのか
      チベットの光 (24) 再度、雹を降らせる
      チベットの光 (25) 再度の殺人
      チベットの光 (26) 山頂の石小屋
      チベットの光 (27) 石屋を建てては壊す
      チベットの光 (28) 風水のよくない建物
      チベットの光 (29) 十階建ての僧坊
      チベットの光 (30) 大きな堡塁
      チベットの光 (31) 受けられない灌頂
      チベットの光 (32) 灌頂を求めてまた侮辱を受ける
      チベットの光(33) 砂を入れるポケット
      チベットの光(34)師母のはからい
      チベットの光 (35) 師父の怒号
      チベットの光 (36) 師母のルビー
      チベットの光 (37) 絶望
      チベットの光 (38) 泣き菩薩
      チベットの光 (39) 偽りの手紙
      チベットの光 (40) 老婆の涙
      チベットの光 (41) 嘘
      チベットの光 (42) 露見
      チベットの光 (43) 法を求める心
      チベットの光 (44) 絶望と自殺への思い
      チベットの光 (45) 最高の弟子
      チベットの光 (46) 真相
      チベットの光 (47) 悟りの兆候
      チベットの光 (48) 俗塵を超えた悟り
      チベットの光 (49) 望郷の念
      チベットの光 (50) 師弟の別れ
      チベットの光 (51) 今生の生き別れ
      チベットの光 (52) 廃墟の実家
      チベットの光 (53) 人生貫徹
      チベットの光 (54) 再び罪業を償う
      チベットの光 (55) 許嫁との再会
      チベットの光 (56) 叔母の来意
      チベットの光 (57) 忍辱
      チベットの光 (58) 精進苦修の誓い
      チベットの光 (59) 野草のイラクサ
      チベットの光 (60) 狩人の凌辱
      チベットの光 (61) 人か幽霊か
      チベットの光 (62) 修行快楽歌
      チベットの光 (63) 兄妹の再会
      チベットの光 (64) 師父の書簡
      チベットの光 (65) 空中飛行
      チベットの光 (66) 所詮は小術
      チベットの光 (67) 世の中で最も幸福な人とは
      チベットの光 (68) 妹の世俗的な考え
      チベットの光 (69) 人生無常
      チベットの光 (70) 叔母の慈悲
      チベットの光 (71) 尊者の名望
      チベットの光 (72) 如何にしたら勇猛精進できるのか
      チベットの光 (73) 学者の嫉妬
      チベットの光 (74) 毒入りチベット・バター
      チベットの光 (75) 済度
      チベットの光 (76) 仏法神通
      チベットの光 (77) 博士の得度
      チベットの光 (78) 涅槃入定
      チベットの光 (79) 神秘現象
      チベットの光 (80) ラティンバの帰郷
      チベットの光 (81) 復活
      チベットの光 (82) 辞世の歌
      チベットの光 (83) 舎利子
      チベットの光 (84) ミラレパの遺品