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引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2013/07/html/d85290.html
チベットの光 (57) 忍辱
叔母が帰った後もミラレパは洞窟の中で修行を続けた。しかし、しばらくすると修煉の壁に突き当たった。自らどのように努力しようとも、それを突破することができずに、どうしたものかと思案に明け暮れていたところ、突如として彼は畑の中にあって、手には耕作用の農具が握られていた。しかし、畑の地面は硬く、耕すことは困難であった。

 「こんなに地面が硬くては耕すことができない」、ミラレパは独り言を言いながら諦めかけていると、遠くの空から一筋の金光が出現した。それは、遠くから段々と近づいてきて、ミラレパが目を凝らすと、それは果たしてマラバ師父であった。師父は彼に言った。「おまえさんや、あきらめずに耕しなさい。地面が硬くてもひるまず、勇猛果敢に前進すれば、最後には成就するぞ」。言い終えると、マラバ師父はいつのまにか地面に降り立っていて、彼の目の前で畑を耕していた。彼もすぐに師父の後について畑を耕し始めた。しばらくして彼が振り返ってみると、畑の中には豊穣の苗が青々と茂っていた。彼は嬉しくなって、目を見開いてみると、そこは相も変わらない洞窟の中であった。それは元々、夢だったのだ。

 ミラレパはこの夢を見た後、大いに励まされた。夢の中で師父から指導を受けたようで、信心が大いに増したのであった。彼は思った。精進して努力すれば、必ず困難は突破できる。一層上の次元に行ける。ミラレパは夢を見た後、フマパイの洞穴に行って修行をすることに思い至った。

 この時、叔母がまたやってきた。叔母は、ツァンバ三斗(※1)、破れた皮衣一枚、布きれ、団子をもってきた。彼女は表情を曇らせ、ミラレパを見て、もってきたものを手渡すと、怒気を含んで言った。

 「もっていきな!これは全部、あんたのもんだよ。あんたの畑を売ったら、これだけにしかならなかったのよ。だからもう、これを持って行って、どっか遠くにでも行っちまいなよ。もう、あんたの声も聞きたくないし、姿形も見たくないんでね」

 叔母は憤懣やるかたないと言った風情で言った。「村人たちは皆言っているよ、あんたは村人たちを酷い目に遇わせたからね、私があんたをここに留まらせると、そのうち、あんたは彼らを全部殺すからね。もし私があんたをここから追い出さなかったら、私とあんたを殺すと彼らに言われたのよ。悪いことは言わないから、どっか遠くに行って!私を殺さなかったとしても、きっとあんたを殺すから」

 ミラレパは、眉間にシワを寄せて聞いていた。村人がこんなことを言っているはずがない、叔母は地所を掠め取ろうとして、こんな嘘をついているのだ。彼は思った。もし自分が本当の修行者でなかったなら、叔母が前回来た時に、彼女の言うことに従って、呪詛を掛けないなどと誓いをたてない。しかし、自分がそのような誓いをしたのは、叔母に地所を掠め取られるためではない。彼は叔母に言った。

 「私は修煉者であり、世間の財物には意を介しません。もし、私が今晩死んだとしたら、その地所が何の役に立つと言うのでしょうか。世間のどのようなものであれ、私には用のないものです。佛を修める人で最も大切なことは、忍ぶことであって、忍辱できるか否かということです。今日、叔母さんは私に忍辱を修めさせてくれました。それに、私が今日正法を得ることが出来たのも、叔父さん叔母さんから賜ったもので、あなたたちは、私に対して恩があります。ですから、私はそれに報いるために、あなたがたが将来佛となれるよう発願しましょう」。ミラレパは叔母に対する憎悪をかみ殺して忍び、最後にこう言った。

 「あなたが、私の畑がほしいと言うなら、どうぞ持っていったらいい。私には何も要らないから、家の地所もあなたにあげましょう」

 叔母は天にも昇る気持ちで、大満足で山を下りて行った。

 (※)斗…計量の単位。一斗は、一升の十倍。約54リットル。

 (続く)


(翻訳編集・武蔵)
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