動画 画像 音声 記事     
         
サブメニュー
      物語
      映画
物語  >  物語
引用サイト:大紀元
https://www.epochtimes.jp/jp/2013/05/html/d28351.html
チベットの光 (46) 真相
師父がそのように言い始めたので、皆は息を凝らして耳をそばだてた。

 「そもそも私が雷を落としたのには原因があるのだ。私のこの怪力の弟子は、苦痛に本当に耐えることができ、重労働のできる大丈夫なのだ。もし彼がこの度の九回に渡る苦痛と打撃に堪え得れば、即身成仏となり、二度と六道輪廻には入らず、その苦しみを受けない」

 師父は、ウェンシーをちらりと見て続けた。「これが彼に難行苦行をさせた理由だ。それで多くの工事をやってもらったのだ。それによってはじめて、以前にやった悪行の業を消滅させることができたのだ」

 「彼の罪業は既にかなり軽くなった。しかし、完全には消滅していない。なぜなら、アバ・ラマが灌頂をしてしまったからだ。それで、もう私は以前のように彼に苦痛を与えることができなくなり、私は怒ったのだ。しかしあなたたちはわきまえていなくてはならない。私の怒りは、一般人のものとは違うのだ。これは全部、法からきているものだ。それゆえ、あなたたちは良くない考えを抱いてはならない」

 「師母は情けが過ぎて、私信を偽造したので、怪力君の業は完全には消えなかったが、八回に渡る大きな苦行と無数の小さな難行で、彼の業の大部分が消滅した。今日から、私は彼に灌頂をし、最も秘密とされている口訣と心要(※1)を伝え、修業期間中の食料を提供して、彼の修煉環境を保証してあげよう。怪力君!今日は本当にめでたい日になったな」

 ウェンシーは座中にあって、まるで夢の中にいるような気分になり、眼前の出来事がまるで信じられなかった。彼は、無限の喜びが心の底から湧き出てくると、嬉しくて何が何だか分からず、涙がとめどもなく流れてきた。彼は泣きながら跪き、師父を礼拝した。

 座中の人たちは師父の話を聴いて、忽然として大悟した。師父が元来、怪力君にあのような不合理なことをしていたのは、彼の修煉を成就させるためであったのだ。平時にあっては慈悲深い師父が、怪力に会うと人が変わってしまったかのように豹変したのは、元来彼の罪業を消滅させるためであったのだ。師父のこの話を聴いて、それぞれが違う悟りを抱き、別個に口に出して討論した。

 「ああ!元来がこのようなことだったのか。われわれが日常で出遭う良くないことは、却っていいことなのだ。私たちが不快に思うことや、いやなことは、その実いいことなのだ」

 「そうか、よくないことに出会って、それがその時に不快であっても、事後には却って身体が軽くなり、心もちもよくなるのは、罪業が消滅しているからなのだ」

 「ああ、このように言うこともできる。良くないことに出会ったとしても悲しむことはない。後によくなるからだ」。皆は聴いて破顔一笑し、ウェンシーが苦しみを嘗め尽くした末に楽が来たのを見て、皆がそれを祝い、心情も愉快になった。

 しかし、私信を偽造したことは反対に遺憾なことだった。こうしたことは心がけの上で用心しなくてはならない。無論相当な原因と理由があったにせよ、嘘をついてはいけない。その他、自分にとって好都合なものや人は、その実良しあしは反対で、実際は自分にはよくないことなのだ。そしてよくないように見えるものが、その実自分にはよきことなのだ。さらに重要なことは、修煉上においては、師父がどのような話をしようと、どのような要求を出そうと、絶対に疑ってはならないのだ。

 もし私信の偽造がなかったならば、ウェンシーはまだ工事を続けていて、佛になる日はそう遠くなかっただろうし、以降の長い修行の道を歩むこともなかったであろう。苦を嘗めることがなくなり、業を消すことができなくなったからだ。私信を偽造したがために、ウェンシーの修煉故事はまだまだ続くことになる。

(※1)心要…仏法修煉上の、法理に照らした心の在り様、心掛け。

(続く)


(翻訳編集・武蔵)
関連文章
      チベットの光 (1)
      チベットの光 (2) 餓えと寒さ
      チベットの光 (3) 人情酷薄
      チベットの光 (4) 家財の返還拒否
      チベットの光 (5) 悲劇の始まり
      チベットの光 (6) 報復の決意
      チベットの光 (7) 酒のうえでの過ち
      チベットの光 (8) 報復の立志
      チベットの光 (9) 師事
      チベットの光 (10) 帰れない家
      チベットの光 (11) 殺人呪術
      チベットの光 (12) 悪因悪果
      チベットの光 (13) 殺人の実行
      チベットの光 (14) ウェンシーの殺害計画
      チベットの光 (15) 報復の継続
      チベットの光 (16) 送金の計
      チベットの光 (17) 雹を降らせる法
      チベットの光 (18) 追手
      チベットの光 (19) 偽の手紙
      チベットの光 (20) 正法への願い
      チベットの光 (21) 聖者到来の夢
      チベットの光 (22) ラマの耕作
      チベットの光 (23) 何のために正法を求めるのか
      チベットの光 (24) 再度、雹を降らせる
      チベットの光 (25) 再度の殺人
      チベットの光 (26) 山頂の石小屋
      チベットの光 (27) 石屋を建てては壊す
      チベットの光 (28) 風水のよくない建物
      チベットの光 (29) 十階建ての僧坊
      チベットの光 (30) 大きな堡塁
      チベットの光 (31) 受けられない灌頂
      チベットの光 (32) 灌頂を求めてまた侮辱を受ける
      チベットの光(33) 砂を入れるポケット
      チベットの光(34)師母のはからい
      チベットの光 (35) 師父の怒号
      チベットの光 (36) 師母のルビー
      チベットの光 (37) 絶望
      チベットの光 (38) 泣き菩薩
      チベットの光 (39) 偽りの手紙
      チベットの光 (40) 老婆の涙
      チベットの光 (41) 嘘
      チベットの光 (42) 露見
      チベットの光 (43) 法を求める心
      チベットの光 (44) 絶望と自殺への思い
      チベットの光 (45) 最高の弟子
      チベットの光 (46) 真相
      チベットの光 (47) 悟りの兆候
      チベットの光 (48) 俗塵を超えた悟り
      チベットの光 (49) 望郷の念
      チベットの光 (50) 師弟の別れ
      チベットの光 (51) 今生の生き別れ
      チベットの光 (52) 廃墟の実家
      チベットの光 (53) 人生貫徹
      チベットの光 (54) 再び罪業を償う
      チベットの光 (55) 許嫁との再会
      チベットの光 (56) 叔母の来意
      チベットの光 (57) 忍辱
      チベットの光 (58) 精進苦修の誓い
      チベットの光 (59) 野草のイラクサ
      チベットの光 (60) 狩人の凌辱
      チベットの光 (61) 人か幽霊か
      チベットの光 (62) 修行快楽歌
      チベットの光 (63) 兄妹の再会
      チベットの光 (64) 師父の書簡
      チベットの光 (65) 空中飛行
      チベットの光 (66) 所詮は小術
      チベットの光 (67) 世の中で最も幸福な人とは
      チベットの光 (68) 妹の世俗的な考え
      チベットの光 (69) 人生無常
      チベットの光 (70) 叔母の慈悲
      チベットの光 (71) 尊者の名望
      チベットの光 (72) 如何にしたら勇猛精進できるのか
      チベットの光 (73) 学者の嫉妬
      チベットの光 (74) 毒入りチベット・バター
      チベットの光 (75) 済度
      チベットの光 (76) 仏法神通
      チベットの光 (77) 博士の得度
      チベットの光 (78) 涅槃入定
      チベットの光 (79) 神秘現象
      チベットの光 (80) ラティンバの帰郷
      チベットの光 (81) 復活
      チベットの光 (82) 辞世の歌
      チベットの光 (83) 舎利子
      チベットの光 (84) ミラレパの遺品