物語 > 物語
引用サイト:大紀元
http://www.epochtimes.jp/2015/12/24830.html
借りは清算される
17世紀、明朝から清朝へ移行する頃、民話として語り継がれたお話です。
*********** 昔、北京から数キロ離れたワージャーダンという村に、チェンという裕福な地主がいた。 チェンのすぐ近くには、リーという農民が住んでいた。リーは、石やレンガの家造りに長けていたので、チェン氏の家で何か修理が必要であれば、行って手伝いをした。チェンもそれに対して気前よくリーに支払ったので、二人は仲良くなり、その後は家族ぐるみの付き合いが始まった。 一年後、チェンは商用のため、家族を連れて南の方へ移住することになった。滞在はほんの数か月になる予定だったが、出発前にチェンはリーを呼んだ。 「リーさん、実は、ひとつ君に頼みたいことがある」とチェンが切りだした。「実は、私には高級な酒を入れた樽が30個ほど家にある。私が不在にしている間、留守を見守る者たちが、私のいない間にそれを飲み干してしまうのではないかと心配なのだ。すまないが、私が帰るまで、君の家でそれを保管してくれないだろうか?」 「そんなの、お安い御用ですよ」とリーは頷いた。「すべての酒樽を、傷一つ付けずに保管しておきますよ。安心して旅に出て下さい」 チェンはリーの言葉に安堵すると、すぐに自宅から30個の酒樽をリーに届けた。リーは、それを倉庫に置くと、しっかりと扉にカギをかけた。 誘惑 2か月が過ぎたが、チェンからは何の便りもなかった。ある日、リーは倉庫にある酒が気になり、酒樽に近づいて匂いをかいでみた。しかし、何の匂いも感じない。「変だな。どんなにシッカリと蓋が閉まっていたとしても、せめて匂いだけでもするはずだが」。リーは樽を揺すってみたが、液体の音はしない。彼は好奇心にかられ、そっと樽の蓋を開けてみた。すると、そこには酒の代わりに、輝くばかりの銀貨が詰まっていた。 興奮した彼は、すかさず全ての酒樽を開けてしまった。中に詰まっていたのはすべて銀貨で、合計3000両だった。彼は誘惑に勝てず、とっさにいくつかの銀貨をつかみ取ると、そのまま市場に繰り出した。彼は高級な酒を大量に買い込むと、その酒を全部の樽に入れた。30個の樽すべてに酒を注ぐと、再び封をして倉庫に保管し、盗んだ銀貨は他の部屋の奥にしまい込んだ。 数か月後、チェンは旅から帰ってきた。リーは何ごともなかったように30樽をチェンに返した。チェンが家に戻って樽を開けてみると、そこには銀貨の代わりに酒が入っているのを見つけた。彼が苦心して貯めた銀貨は、すべてリーに盗られてしまったことが分かったが、なす術もなかった。 チェンは頭を悩ませたが、銀貨を取り戻す方法は思いつかなかった。彼の無念は徐々に身体をむしばみ、とうとう半年後には亡くなってしまった。 チェンが逝くと、リーは心が騒いだ。「これで堂々とチェンから奪った銀貨を使い、小作人から地主になれるぞ」。リーは早速、次々と土地を買うと、立派な家屋を建て、数人の愛人を住まわせて贅沢に暮らした。 警告 数年後、リーの愛人の一人が懐妊し、彼は心から喜んだ。彼はずっと息子を欲しがっていたが、妻は子どもを産めなかったため、跡継ぎについて心配していたからだった。 子供がまさに生まれようとする前夜、リーは不思議な夢を見た。ドアが開き、亡くなったはずのチェンが入ってきたのだ。チェンは肩に大きな布袋を抱え、憎々し気にリーを見つめている。 「俺は、お前の借りを取り立てに来た」。チェンはニヤリと笑った。リーは冷や汗をかきながら夢から覚めた。 その時、女中が急いでリーの部屋へやってきて、男の赤ん坊が生まれたことを告げた。リーの悪夢とは裏腹に、男の子は丸々として健康的だった。 リーは、生まれたばかりの息子に災いがあるのではないかと気を揉んでいたが、それはいらぬ心配だった。息子は賢くて勇気があり、また親に対しては非常に従順だった。リーは息子の将来のために惜しみなく財産を使い、最高の家庭教師をつけてやった。その後、リーは徐々にチェンの悪夢のことを忘れていった。 清算 リーの息子は成長し、科挙に合格した。官僚になったが、その位は上位から7番目だった。リーの家では祝いのための盛大な宴会が開かれていたが、ある一人の客が言った。「リーさん、今は官位も金で買える時代だ。息子さんのために、金を使ったらどうだね」。その場にいたほかの客も、皆うなずいた。 リーは息子のために銀貨を高官に送った。ほどなくして、息子は7番目から4番目に昇進した。リーは歓喜した。 息子は、嫁を娶るのには申し分ない官位を得たが、彼は普通の女性では満足しなかった。彼が目をつけたのは、権力のある政治家の家に住む女性で、それはまたあらたにリーが金を工面してやらねばならないことを意味していた。 ある日、リーは杯を傾けながら、うたた寝をしていた。息子の将来は明るく、美しい婚約者との結婚式も近づいている。すべてに満足したリーは、ふと眠りに落ちた。すると、あのチェンが目の前に現れた。 「ずいぶんと時間がかかった」。チェンはにやりと笑った。「しかし、ようやくお前からすべての貸しを取り立てることができた。ほんの少しの利子もついている」 話ながら、チェンは肩にしょった大袋をたたいた。リーがよく見ると、その袋には銀貨が詰まっている。「借りは清算された」とチェンは言った。「これでお前を放免してやろう」 リーが目覚めるのと同時に、下男が彼の部屋をノックした。「ご主人さま、ご子息様がご病気です」 借りの取り立てがやってきた。リーは動転して息子の部屋に駆けつけたが、すでに息子は亡くなっていた。 リーは、すべてを悟った。チェンは彼の息子として生まれ変わり、父親に大事に育てられ、自分の銀貨を取り返したのだ。リーが息子のために使ったのは3千両で、ちょうどチェンからかすめ取った金額だった。 リーはすべてを失い、生きる気力もなくなった。町をうろつき、人々に天の掟を破れば、後には応報が待っているということを話して回った。リーのみじめな様子を見て、人々はただ首をかしげるばかりだった。 (翻訳編集・郭丹丹) |